3章1節:心療内科を受診した理由と初診の不安

心療内科を受診した理由 ― 配偶者の勧め、休職の手続き

パソコンの画面越しに、上司に対して胸の内を吐き出した数日後、私は初めて心療内科を訪れました。受診を決めた理由は二つあります。

一つは、企業の管理部門で働いてきた配偶者の勧めです。仕事上、私と同じような症状で悩む人たちに多く接していました。職場環境が原因で心を病み、心療内科を受診し、やがて休職した人たちです。

もう一つは、勤務先における手続き上の理由です。休職制度を利用するためには、医師の診断書を会社へ提出する必要がありました。

病院に予約を入れる際、私は一線を越えるような怖さがありました。キャリアを中断することが、かつての失業経験を思い出させたからです。

思考の糸が切れ、体が動かない ― 理由もなく溢れる涙

受診までの数日間、私は自宅のダイニングに座ったまま、何時間も空中をただ見つめて過ごしました。強いストレスから解放された安心感と、大事な仕事を自ら手放したことへの不安が交錯したまま、途方にくれていたのです。

そうしている間、自然と涙がこぼれてきました。

私は子どもの頃からいつも「悔しい、悔しい」と思い続けてきました。心の中で、ぎゅっと何かを強く握りしめるように生きてきた気がします。この時、それらの悔しさを溜め込んできた心のダムが、ついに決壊したような感覚でした。

心療内科で症状の伝え方 ― 苦しさをありのまま話す

私は虚脱感に包まれて過ごしながらも、一つだけ考えたことがありました。心療内科で何をどのように話せばよいかということです。初めての受診が不安でした。

例えば、多くの人がそうであるように、急に高熱が出たり喉が痛くなれば、かかりつけ医に行き、治療薬や痛み止めを処方してもらうでしょう。また、歯が痛ければ歯科医院へ行くと思います。

心療内科ではどのように症状を訴えればよいのでしょうか?どこがどのように痛いとか不調だと言えばいいのでしょうか?

当時の私は、激しい憤りや悲しみ、不安の波に溺れそうになっていました。そのため、仕事はもちろん、日常生活でも物事が手につかなくなっていたのです。しかし、このような症状に対してどのような治療手段があるのか、私には想像がつきませんでした。

悩んだ末、直近の職場での出来事と、その時々の感情や苦しさをありのまま話すことにしました。そうすることしか思いつかなかったのです。

「重症ですね」精神科医の一言が心を解いた日 ― 認知の歪みを直感

初診時、精神科医の問診を受けている間、自然と涙が溢れてきました。初対面の人を前にして泣き続ける自分に驚きました。

ハンカチで涙を拭いながら、それまでの数年間に職場で経験した出来事について話しました。

医師が少し踏み込む形で、直属の上司の具体的な言動について尋ねてきた時のことです。私の頭の中で真理さんの声や表情が一気に蘇り、声を上げて泣き出しそうになりました。下を向いて必死に堪えましたが、喉が詰まり、医師の問いかけに一言も返すことができなかったのです。

その様子を見た医師は、一言、誰に言うでもなくこう言いました。

「重症ですね。思い出すのも辛いんですね」

この言葉を聞いた瞬間、私は胸の奥が少しだけ軽くなるのを感じました。そして、自身の苦しさが形あるものであることを初めて自覚したのです。同時に、第三者が私のことを言い表してくれたことで、これまで当たり前だと思っていた私の自己認識は、ひょっとしたら歪んでいるのかもしれないと直感したのです。

今振り返ると、この時の直感がすべての始まりでした。以降、医師やカウンセラーと話をする時、自分の気持ちや言葉を少し離れた所から眺めるような感覚を持つようになりました。

休養期間中、この「自身を客観視する姿勢」が認知を修正するうえで大切であることを徐々に知ることになります。

診察の最後に「星野さんは今後どうしたいですか?」と医師に尋ねられました。私は「休みたいです」と答えました。心の底から出た本当の言葉でした。