2章1節:組織再編と企業文化の変質による職場の疎外感

組織再編によって変わり始めた企業文化と現場のもどかしさ

休職を決めた時、私は欧州系化学企業の日本法人で働いていました。担当はマーケティングです。

休職する数年前にさかのぼります。グローバルな組織再編に伴い、日本の上層部も刷新されました。この時を境に、会社の雰囲気は少しずつ変わり始めたと思います。

日々の業務の中で、顧客やパートナー企業への配慮が以前ほど強調されなくなり、社内での根回しや調整が増えたと感じるようになりました。もっとも、こうした社風の変化は企業社会ではよくあることかもしれません。

私を含め、多くの同僚は事業内容と顧客に対して強い当事者意識を持っていました。だからこそ、会社の変化に焦りやもどかしさを覚えたのです。

再編の際、昇格する形で日本のトップに就任したのが信彦さん(仮名)です。そして、彼の補佐役として新たに採用されたのが真理さん(仮名)でした。この時から、彼女が私の直属の上司になりました。

新しい上司への第一印象と拭えなかった違和感

真理さんは入社初日、従業員の前で挨拶をしました。

「これから組織を作っていくよう言われました。初日から貢献できるよう全力で頑張ります」

自己紹介として表面的には普通の言葉でしたが、私にはわずかに引っかかるところがありました。彼女の率直な意欲の表明が、どこか緊張感を伴って響いたからです。また、その顔つきと声色には、私が自然と想像していた謙虚さや慎重さとは少し違う気配が感じられました。

その後も、彼女の言動の細部に、心がざわつく瞬間が何度もありました。しかし、気にしすぎだろうと自身に言い聞かせたのです。

当時、私は新しい上司を偏見なく受け止めたいと思っていました。かつて私も同じような経験があったからです。新しい職場に移った際、先入観を持たれたことで関係構築に苦労したことがあったのです。

この自身の経験が、新たな環境にまだ慣れないであろう彼女への違和感を抑え込みました。

職場で少しずつ進んだ疎外と情報共有からの排除

会社の新体制発足後、少しずつ、しかし確実に、私は疎外感を感じるようになりました。しかしながら、自身に非は思い当たらず、理由のわからない胸騒ぎだけが残ったのです。

ある時、社内メールのCCに私が入っていないことに気づきました。同僚の一人がそのメールを転送してくれたのです。同じことが数回続きました。

また、別の同僚たちが私から距離を置こうとする雰囲気も感じました。例えば、私が会議で何か発言しても、上辺だけの返事に留まることが増えたのです。職場で雑談する機会も少なくなりました。

おそらく、新体制の空気を読んで、同僚たちも仕事に対する熱意と保身の間で揺れていたのかもしれません。会社組織ではよくあることだと思いますが、私の中では不安感が次第に膨らんでいきました。

担当業務からの除外、不透明な意思決定

私の不安は少しずつ現実になりました。ある日、業界で有名な媒体に自社に関する情報が掲載されていたのです。私は二つの点で驚きました。

第一に、対外的なコミュニケーションは私の担当業務であったにも関わらず、私はその出稿の件を知りませんでした。

第二に、その掲載内容のコンテンツの質が、従来の社内基準に達していなかったのです。使われている文言は文法的には正しいものの、業界の文脈にそぐわないと感じました。また、クリエイティブは会社の厳しいブランドガイドラインに則っていなかったのです。

このように、それまで社内で共有してきた前提や判断基準が無視されるような出来事が続けて起こりました。これらのことは、真理さんが彼女の旧知のマーケティング代理店と直接進めていたことだったのです。

また、ある日の全体会議で、次年度の事業計画の概要が伝えられました。その中には当然マーケティング施策も含まれていましたが、私はその計画作成に全く関与していなかったのです。

「私を大事な話し合いに入れてください」

真理さんに直接お願いしました。そうすることで、マーケティング活動の課題や蓄積されたノウハウを共有したかったのです。彼女の立場であれば、私の趣旨を理解してくれるだろうと信じていました。

しかし、状況は何も変わらなかったのです。それどころか、私は関係部署やパートナー企業との定例会議からも徐々に外され、同僚との情報共有にも支障が生じ始めました。

話し合いが成立しない職場で募った羞恥心と屈辱感

私を議論に加えるよう真理さんに繰り返し要望しました。しかし彼女は、「必要な情報は共有しています」と淡々と無機質に答えるだけです。まるで定型文のように聞こえました。

私には話し合いたい件がいくつもありました。それなのに、正面から向き合ってもらえない彼女の態度を前にすると、焦りと失望で頭が真っ白になりました。その結果、何から話すべきか糸口を見失い、まるで私自身が仕事の課題を整理できていないかのような雰囲気が形成されていったのです。

ある時、同僚の一人が声をかけてくれました。

「大丈夫?みんな菜穂樹さんのこと心配してるよ」

その同僚が親切心で言ってくれたことは分かりましたが、私の中では羞恥心や屈辱感に似た気持ちが込み上げてきました。私の孤立が社内で広く知られていることを実感したからです。

同時に、会社組織の無情さを痛感しました。誰も私の置かれた状況を変えられないことを悟ったからです。この頃から、私は上司との意思疎通に悩むだけでなく、同僚との間にも見えない壁を感じるようになりました。